血統入門【第6回】快速の開拓者ナスルーラ

 

 本日の主人公は前回取り上げたネアルコの息子、

偉大なるアメリカ競馬の開拓者ナスルーラです。

 

彼はネアルコの母系に内在されているアメリカ育ちの「雑草血統」の活力を呼び起こし、

アメリカの地で種牡馬として大成功を収めてアメリカ競馬の発展に大いに貢献することとなりました。

 

そんなナスルーラとはどのような馬だったのか。

今日は、彼の父系としての大繁栄から衰退までの話を、

一緒に見ていきましょう。

 

ナスルーラ(1940年 イギリス生まれ)

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父に大種牡馬ネアルコ

母父に英ダービー馬のブレニムを持つナスルーラは、

燃え盛るような激しい気性と類まれなるスピードを持った快速馬でした。

 

父と母父はヨーロッパの中距離馬。

実はナスルーラのスピードは、「フライングフィリー(空を翔ぶ牝馬)」と言われた、

祖母の「マムタズマハール」から来ています。

 

この牝馬は凄まじい速さを伝え、

20世紀最高のスピード血脈と言われている繁殖牝馬です。

この血を持っているかどうかで、種牡馬として成功できるかどうかが分かれると言われたほどで、

ナスルーラと4分の3同血のロイヤルチャージャーも、

この血からスピードをの遺伝を受けています。

ナスルーラの母が、ロイヤルチャージャーの祖母)

 

マムタズマハールのスピードの源泉は、

父であるザテトラークという芦毛の快速馬です。

かれはその容姿と強さから「まだらの怪物」と言われ、

短距離の舞台で無敗の競走成績でした。

 

・・・ナスルーラ自身に話を戻しましょう。

ナスルーラ2〜3歳時に英国で10戦5勝の成績を収め、

英チャンピオンSを制します。

しかしその秘められていると言われていた能力とは、

あまりにそぐわない競争成績でした。

 

当時、アメリカの名騎手であったF.アーチャーでさえ押さえ込めないほどの暴れん坊で、

大レースのたびに出走前に駄々をこねて発走遅延を招いたり、

ゴール前で突然やる気を失って失速したり。

あるいは直線で早め先頭に立つと遊んで(ソラを使って)しまったりと、

誰が見ても実力の全てを出せていないのが明らかなレースが続いていました。

 

チャンピオンステークスはそんなナスルーラの気性を考慮した騎手の好騎乗で、

仕掛けを遅らせてきっちりと先頭でゴールしましたが、

競走馬としてはその気性によって大いに出世を妨げられてしまったというのは間違い無いでしょう。

 

さて、そんなナスルーラでしたが、

1944年にイギリスで種牡馬入りしてからは更に気性が苛烈になり、

世話をする人間を次々に襲って怪我をさせるという手のつけられない凶暴な馬と化してしまっていました。

 

そんな競走成績も一流とは言えず、凶暴な馬であるナスルーラに、

生産者であったアガ・カーン3世は見切りをつけます。

後に一大系統を築く事になるナスルーラを、安値でアイルランドの生産者に売却してしまったのです。

そして売却された後も、イギリスとアイルランドでは一流の種牡馬成績を残していたわけでは有りませんでした。

 

しかし、時を同じくして遠く離れたアメリカの血で、

ナスルーラの初年度産駒であったヌーアという馬が、

アメリカ競馬に素晴らしい適性を発揮するという事件が起きます。

ヌーアはアメリカに転戦後、当時無敵と言われていた米三冠馬の「サイテーション」を、

3戦連続で見事に打ち負かしてしまったのです。

 

それを見たアメリカの生産者がナスルーラに大いに関心を抱き、

大金をもってナスルーラを購入して自分の牧場に連れ帰ります。

こうして、ナスルーラアメリカでの大繁栄の歴史が始まる事となりました。

 

1951年。

皮肉にもアメリカで初年度共用が開始されたこの年に、

イギリスに残してきたナスルーラの産駒が大活躍することとなります。

その年、ナスルーラは英リーディングサイアーに輝きました。

 

そしてアメリカでも産駒たちは期待に違わない適正を見せ、

ナスルーラは米リーディングサイアーの座を5回も獲得しました。

彼の燃え盛るような激しい気性は産駒たちに闘争心となって伝わり、

その仕上がりの早さ、傑出したスピードと瞬発力という、

アメリカ競馬に必要な要素を兼ね備えた産駒を次々に送り出したのです。

(このあたりは、日本で産駒が大活躍したサンデーサイレンスにも通じるものがありますね。)

 

そしてナスルーラは自身も素晴らしい種牡馬成績を残しましたが、

彼の後継種牡馬たちがさらに素晴らしい種牡馬成績を残し、

スピードと瞬発力、闘争心に優れた名血として世界にその血を拡大させていきました。

 

直系ではとくに

ボールドルーラー

●グレイソヴリン

ネヴァーベンド

レッドゴッド

プリンスリーギフト

などが種牡馬として大成功を収め、

それぞれ系統を確立させています。

(詳しくは、後々の回でご紹介したいと思います。)

 

そして人間というのは、

場所や時代が変わっても同じような過ちを繰り返してしまうものなんですねえ・・・

ナスルーラのあまりに優れた血に群がるように産駒を増やし続けた結果、

血の飽和を引き起こし、次第に父系統としては世界の主役から退く事となってしまいます。

 

一大系統を築き上げて世界中にその血を拡大させた偉大なるナスルーラ

しかし、彼を上回る新たな使者が、辺境と言われていたカナダで誕生することとなります。

その馬は、ナスルーラの比ではないほどの破壊力であっという間に血統の世界地図を塗り替え、

かつてのセントサイモンをしのぐ影響力で、

今もなお世界の競馬の主役系統として君臨し続けています。

 

もう皆さんにはお分かりでしょうか。

次回は、ついにその馬が主役として登場してきますので、

ぜひ楽しみにしていてください(^^)

 

今回も最後までご覧いただき有難うございました。

ではまた(^^)