サラブレッドの血統や競争能力の遺伝というのは非常に難しいもので、
血統が全く同じ全兄弟姉妹でも全く異なった適性や性格、
競走能力を持って産まれてくることがほとんどです。
全兄がG1レースを複数勝利している名馬なので・・・
と高い出資金を払って期待していても、
全弟は条件戦止まり。
あるいは最悪の場合未勝利で引退・・・
なんてケースも一口馬主の世界では珍しくありません。
そして同じディープインパクト×ストームキャットのニックス配合なのに、
ある馬は極上の末脚をもってダービー馬となり、
ある馬は芝で全くスピードについていけず。
やむなくダートを使われても砂をかぶって大敗・・・
なんてケースもザラに有るわけです。
血統が全てではない。
むしろ血統なんて競走馬のステータスを推し量る上で、
隠し味程度の要素にしかならない。
そんな声が上がるのも無理はないと思ってしまいます。
さて、今日はそんな血統の運命により、
競走馬としての低い評価をガラッと塗り替えてしまった、
ある良血馬のお話です。
ノーザンダンサーが世界に最も大きな影響を与えている種牡馬なのであれば、
この馬は「現代の日本に最も大きな影響を与えている」と言っても、
決して過言ではない存在です。
■ロイヤルチャージャー(1942年 イギリス産まれ)
父はネアルコ。
(ネアルコはノーザンダンサーの父であるニアークティックや、ナスルーラの父でもあった大種牡馬でしたね。)
母サンプリンセスはナスルーラの母でもある「マムタズビガム」の娘です。
(ナスルーラの半姉に当たります)
つまりロイヤルチャージャーは「ナスルーラと4分の3同血(父が一緒で母が親子同士)」という極めつけの良血馬でした。
このこともあって、
アメリカに渡ることとなります。
ロイヤルチャージャーは競走馬としては決して一流では有りませんでした。
しかし、今日の日本競馬に絶大な影響を与えているサイアーラインの祖であり、
長い時間をかけてその超一流の血統を証明しています。
イギリスで産まれデビューしたロイヤルチャージャーは、
3歳時に英2000ギニーの3着。
4歳時にクイーンアンS勝ちなど、
生涯で21戦して6勝を上げます。
気性が荒く、短距離からマイルまでのスピードレースを得意とした馬でした。
そしてその特徴は、産駒たちにも受け継がれていく事となります。
引退後、アイルランドで種牡馬入りしたロイヤルチャージャーは、
そこで数年の種牡馬生活を経て、
1953年、一路アメリカへ渡りました。
そして奇しくもこの時、
アイルランド時代に残してきたロイヤルチャージャーの産駒が、
アメリカに渡って競争生活をスタートし大活躍します。
それが、他ならぬロイヤルチャージャーの後継種牡馬「ターントゥ」でした。
ターントゥは生涯競走成績8戦6勝。
アメリカ競馬に求められる仕上がりの早さとスピードに長けた一流馬で、
当時の2歳の最高賞金レースであるガーデンステートSなどの大レースを制しています。
3歳になっても連勝街道を走っていたターントゥは、
ケンタッキーダービーの本命馬に推されますが、
残念ながら屈腱炎を発症し引退を余儀なくされてしまいました・・・
ロイヤルチャージャーを、
「日本競馬に最も大きな影響を与えたサイアーラインの祖」と紹介しましたが、
このターントゥを通じて、彼はの血は凄まじい発展を遂げることとなります。
まずターントゥの産駒としてヘイルトゥリーズンが誕生します。
そしてヘイルトゥリーズンからロベルトとヘイローが誕生します。
ロベルトは世界で一台系統を築き、
日本競馬にも底力と個性に満ちた魅力的な子孫達を数多く送り出しました。
例えば一例を上げると・・・
阪神大賞典で年度代表馬同士のプライドをかけたマッチレースを繰り広げた、
彼らは2頭とも、ロベルトの息子である「ブライアンズタイム」の産駒同士でした。
そして武豊を背に、府中の直線で最後の輝きを放ったタニノギムレットと、
青葉賞馬のダービー未勝利の宿命に勝てず涙を飲んだシンボリクリスエス。
シンボリクリスエスもロベルトの息子「Kris.S」の産駒です。
そしてグランプリで異常なまでの強さを発揮して強敵を破った「栗毛の怪物」グラスワンダー。
彼もまた、ロベルトの息子であるシルヴァーホークの産駒でした。
そしてヘイルトゥリーズンからヘイローのライン。
ヘイローからは日本競馬の血統の勢力を一気に塗り替える名種牡馬が誕生しました。
そう、「サンデーサイレンス」ですね。
ロベルト系やサンデーサイレンス系の活躍を細かく書くと本題の趣旨とかわってしまうので・・・(笑)
またそれは後のお話で。。。
超良血馬として生を受けながら、
競走馬としては決して一流の成績を残せず、
数多の馬の後塵を拝してきたロイヤルチャージャー。
偉大な父と叔父の七光りで種牡馬入りしたと思われた彼が産駒たちに伝え続けたのは、
その良血馬としての遺伝子以上に、
「ロイヤルチャージャー」という競走馬としては大成できなかった一頭のサラブレッド
としての、
悔しさとプライドだったのかもしれません。
今回も最後までご覧いただき有難うございました(^^)
ではまた。