血統入門【第12回】砂王の矜持ボールドルーラー

生き残るのは「強い者」ではなく「変化に対応できる者」である。

 

『強者生存』ではなく『適者生存』という考え方に基づいたこの言葉は、

ビジネスの世界でもよく使われているのを目にしますね。

曰く、生き残るのはいち早く変化に対応した企業だ、と。

 

種牡馬の世界でもこの『適者生存』の考え方は重要で、

基本的にサイアーラインを伸ばして後継種牡馬を数多く輩出している馬は、

皆共通して変化に強い傾向があります。

 

スタミナ豊富な牝系と合わさればステイヤーを出し、

スピード豊富な牝馬との配合ではマイラーやスプリンターを出し、

北米のダート血統と合わさればダートの一流馬を出し・・・

と言った具合に幅広い適性を示して多彩な産駒を輩出すること。

 

そして欧州、北米、日本、オセアニア・・・

地域性による競馬システムや環境、気候の違いにも対応できること。

 

それが後々まで繁栄していくサイアーとしての条件なのです。

 

今回ご紹介するのは、

そんな『適者生存』が当たり前の競馬世界の中で、

ダートに優れた産駒を輩出し続けるという『強者生存』の特色を持った、

北米のスーパースターのお話です。

 

前回に引き続き「ナスルーラ系」のサイアーラインの種牡馬が今回の主役です。

 

ボールドルーラー(1954年 アメリカ産まれ)

 

https://cdn-images.bloodhorse.com/i/bloodhorse-images/2014/10/e97273c47da34f6d88cca25b3a318f78.jpg?preset=llr

 

父に大種牡馬ナスルーラ

母の父に以前もご紹介した、「鉄の馬 ディスカバリーネイティヴダンサーの母の父でもありましたね。)を持つボールドルーラーは、

主にアメリカのダート戦線で活躍し32戦23勝。

1957年には米年度代表馬に輝きました。

 

プリークネスステークスを制した他ハンデキャップ戦などで60Kg以上のハンデを背負って快勝するような、非常にタフで強い馬でした。

(このへんは母父ディスカバリーの血ですかね。)

 

しかし快速馬ナスルーラの仔らしく距離適性は短く、

マイルがベストであったと言われています。

 

種牡馬としてのボールドルーラー

競争馬としても十分一流の成績を残したボールドルーラー

しかし種牡馬としてはそれ以上の活躍で、

北米を中心にナスルーラ系の看板を引き継ぎ、優れた後継を輩出します。

 

リーディングサイアーに輝くこと実に8回という凄まじい成績。

1963年〜69年には7年連続でその座に君臨し、

まさに一時代を築きました。(あと一回は1973年でした。)

 

ただ・・・自身と同様に距離に限界がある産駒が大半で、

アメリカのクラシックレースを勝ったのは1973年の「セクレタリアト」のみでした。

まさしく、短距離とダートに特化した血だった訳ですね。

 

ボールドルーラーとその父ナスルーラは「プリンスキロ」という欧州のスタミナ型種牡馬と好相性(いわゆる「ボルキロ」「ナスキロ」と言われるニックスですね。)なのですが、

セクレタリアトは母父がそのプリンスキロだったので、長い距離を走れたのだと言われていますね。

 

ボールドルーラー、母父プリンスキロのニックスからは、他にも

ボールドラッド、ボールドビダー、チーフテンなどの種牡馬も出ています。

そして後に誕生する米三冠馬の「シアトルスルー」も、

母父がプリンスキロ系でした。

 

ボールドルーラーの後継種牡馬

ボールドルーラーの後継として現在父系で活躍しているのは、

そのほとんどがシアトルスルーを経由するラインのみとなってしまいました。

すでに父系としては衰退してしまっていますが、

ここではそのシアトルスルーと、もう一頭の三冠馬をご紹介します。

 

セクレタリアト(1970年 アメリカ産まれ)

ボールドルーラー、母父プリンスキロのニックス配合の最高傑作。

母のサムシングロイヤルは、名種牡馬サーゲイロード」の母でもあるという、

超良血馬です。

 

アメリカで21戦16勝。

ダート1100mでデビューし、

引退レースは芝2600mのカナディアンインターナショナルSを制するなど、

非常に幅広い適性を発揮して活躍しました。

 

現役時代は最優秀2歳牡馬、最優秀3歳牡馬に輝き、

引退後はアメリカの殿堂馬や、馬でありながら20世紀のトップアスリートに選出されています。

まさに、アメリカ競馬史上屈指の名馬と言えるでしょう。

 

種牡馬としては父系としては途絶えてしまっていますが、

母の父としてストームキャットエーピーインディゴーンウエスト

チーフズクラウンなどの名馬、名種牡馬を輩出しています。

 

シアトルスルー(1974年 アメリカ産まれ)

アメリカで17戦14勝という戦績。

無敗で米三冠馬となり、その後も優れた競走成績を残した実績から、

アメリカ史上最強馬と言われている馬です。

この馬もアメリカの殿堂馬に選出されています。

 

この馬はセクレタリアトと比べると決して良血ではなく、

父はボールドルーラーの孫であるボールドリーズニング

母もアメリカの数頭の繁殖牝馬しかいない小さな牧場の馬でしたが、

種牡馬としては優れた成績を残し、

現在はほぼ唯一のサイアーラインを継続させている系統となっています。

 

日本でもダートを中心に活躍しているので、

特に短距離ダートで見つけたら特注の系統です。

 

エーピーインディプルピットタピットテスタマッタ

エーピーインディマインシャフトカジノドライヴ

エーピーインディ→オールドトリエステシニスターミニスター

今も日本で現存しているサイアーラインは、エーピーインディを経由したものですね。

 

・カポウティ→ボストンハーバー

のラインも以前は有りましたが、今は父系としては途絶えてしまっています。

 

こうしたダートの血はなかなか芝血統に比べると分かりづらく人気になりにくいですが、

ダート競馬のトップであるアメリカで磨かれ続けた、

ダート短距離の超一流血統なのです。

 

これから開幕する中山ダート1200あたりで見かけたら、

ぜひ狙って見てください。

 

とにかくダートでその強さを磨き続け、

ここまでサイアーラインを継続させたボールドルーラー

これからも系統の馬たちが日本競馬でも存続し続けることを、

願ってやみません。