血統入門【第20回】幻の頂点ヌレイエフ

天というものは時に非常に残酷に、

才能あるものから活躍の場や時間を奪ってしまうことがあります。

 

我々人間の世界でも、

天災や病気など不可抗力により、

その活躍を妨げられ、時には命まで落とした英雄が数多く存在します。

 

競走馬の世界でも同様で、

しばしば怪我や病気によって、

活躍の機会を絶たれてしまう馬がいます。

 

今回の主人公も、

競走馬として余りある才能を持って生まれながら、

自身はその能力の一端を示しただけで、

競走生活を終えざるを得なかった一頭です。

 

鮮烈のデビューからわずか3戦で電撃引退。

競走馬として一度掴みかけた頂点を、

手のひらからこぼしてしまった悲劇の名馬ヌレイエフのお話です。

 

■ヌレイエフ(1977年 アメリカ産まれ)

ノーザンダンサー中期の傑作ヌレイエフは、

父に世界的種牡馬ノーザンダンサー

母に競馬史上屈指の名牝スペシャルという、

極めつけの良血馬でした。

 

父にアルゼンチンの名種牡馬フォルリを持つ母のスペシャルは、

ヌレイエフの他にサドラーズウェルズ・フェアリーキング」兄弟の母であるフェアリーブリッジや、

ミスプロ系の名馬ジェイドロバリーの母となる「ナンバー」などを産んだ、

超名繁殖牝馬です。

この母なくして、ヌレイエフを語ることは出来ないでしょう。

 

アメリカの2歳のセリ市場でギリシャの馬主に購入されたヌレイエフは、

ヨーロッパに渡ってフランスの重賞(芝1500m)でデビューを飾ります。

話題となっていた調教の動き通り、レースでも素晴らしい才能を発揮し、

馬なりのまま2着に6馬身差をつける圧巻のデビュー勝ちを収めます。

 

2戦目は3歳4月のリステッド競走。

フランスの芝1400mのこのレースも2着に6馬身差をつける圧勝劇で、

ついにG1に挑むこととなります。

 

イギリスの2000ギニーで3戦目にして初のG1タイトルを狙うヌレイエフは、

前走までの強さを評価されて1番人気でレースを迎えます。

スタートして中段でレースを進めたヌレイエフは、

直線残り2ハロンを切ったところでスパートをかけて、

馬群を抜け出します。

 

そのまま最内を走っていた「ノウンファクト」に並びかけ、

追い争いをヌレイエフがクビ差制したところがゴールでした!

 

しかし・・・

馬群を抜け出した直後に内側に斜行したヌレイエフは、

3位入選となる「ポッセ(奇しくも母の父であるフォルリの産駒でした)」の

進路を妨害してしまっていて、審議対象となります。

 

結局審議の結果ヌレイエフは失格。

天才のあまりに順調すぎる競走能力に、

天が試練を与えたのでしょうか。

初G1タイトルは、掴みかけたところで手から滑り落ちてしまいました。

 

そしてさらなる不運が、

ヌレイエフを襲います。

このレースの直後にウイルス性の感染症にかかってしまった彼は、

そのまま引退することを余儀なくされてしまったのです。

 

通算成績3戦2勝(失格1回)。

あまりに短く、悔いの残ったままの幕引きとなってしまいました。

 

種牡馬としてのヌレイエフ

 

ミエスク | 競馬データベース | JRA-VAN Ver.World

 

先程記したように、

血統面では超一流の血を持つヌレイエフ。

 

その種牡馬としてのポテンシャルは凄まじく、

父として、そして母の父として。

優れた競走馬、後継種牡馬繁殖牝馬を多数輩出しました。

 

この短い競走成績で超有名馬なわけですから、

その種牡馬としての活躍がいかに凄まじいものであったかが分かります。

以下に、その代表的なところをご紹介していきましょう。

 

●ターフクラシックステークス、マンノウォーステークス、ブリーダーズカップ・ターフなどG1を6勝した「シアトリカル」

 →この馬は日本でも有名ですね。半弟にタイキブリザードがいるアイルランドの名馬です。

コスモバルクの父であったザグレブ」、

そして何より、女傑ヒシアマゾンの父としても有名です。

 

●欧州マイルの女帝「ミエスク」

 →競走馬としても英1000ギニージャック・ル・マロワ賞ムーラン・ド・ロンシャン賞などヨーロッパの大レースを制し、

アメリカ遠征ではブリーダーズカップ・マイルをレコード勝ちした素晴らしい馬でした。

しかし、なんと言ってもこの馬は超名馬、名種牡馬であるキングマンボ」の母として、

今も多くの馬の血統表の中で存在感を放っています。

キングマンボはキングカメハメハの父ですから、

日本競馬に与えた影響も凄まじく大きいですね。

 

●その、ミエスクのライバルであった名マイラー「ソヴィエトスター」

 →ミエスクとは3戦して1勝しています。

 

●2冠馬ナシュワンを抑えて英年度代表馬になった「ジルザル」

 →今でもたまに血統表で見かけますね。

 1989年の英年度代表馬になった一流マイラーです。

 

●名種牡馬ピヴォタルの父でもある名マイラー「ポーラーファルコン」

 「ピヴォタル」はミッキーロケットやトリコロールブルーなどの母の父です。

 

武豊を背に安田記念を勝ったハートレイク

 →ゴドルフィンの馬で、95年の安田記念の覇者です。

 

●英・愛・仏・米で14戦8勝のマイルのスペシャリスト「スピニングワールド」

 →14戦中13戦がマイルというスペシャリストでした。

 オークスヌーヴォレコルトの母の父でもあります。

 

●1990年代の欧州最強馬候補の一頭と言われているパントレセレブル

 →この馬はフランスダービー凱旋門賞を勝っています。

 この中では珍しく中距離以上で活躍した一流馬ですね。

 

●岡部、武豊、横山、柴田善臣、蛯名など日本の一流ジョッキーが騎乗したブラックホーク

 →スプリンターズS安田記念を勝っています。

 

●バラード牝系の名繁殖「ハルーワソング」

ヴィルシーナ、ヴィヴロス、シュヴァルグランなどの母「ハルーワスウィート(父マキャヴェリアン)」を産んだ名牝です。

 

トゥザヴィクトリーサイレントディールの母「フェアリードール」

(2頭は共に父サンデーサイレンス

→フェアリードール牝系はヌレイエフ系の名牝系なのでぜひ覚えておいてください!

 

 ●ミッキーアイルやアエロリットを出した牝系の「アイルドフランス」

 

■母の父としてのヌレイエフ

ヌレイエフの血の力は、母方に入っても素晴らしいものが有りました。

 

キングマンボ(父ミスタープロスペクター

ジャングルポケット(父トニービン

トゥザヴィクトリー(父サンデーサイレンス

ゴールドアリュール(父サンデーサイレンス

フサイチパンドラ(父サンデーサイレンス

イーグルカフェ(父ガルチ)

スリープレスナイト(父クロフネ

 

などが日本では有名なところでしょうか。

実に多彩なジャンルの名馬、名牝を出して、

母の父としても日本の競馬を盛り上げてくれていますね。

 

種牡馬として、

実に100頭以上のステークスウィナーを輩出したヌレイエフ。

 

マイルを中心とした有り余る競走能力は、

しっかりと子孫たちに受け継がれて、

世界にその影響力を拡大させています。

 

自身の果たせなかった頂点の夢を産駒たちに託したヌレイエフ。

 

彼の血は、特にマイルのレースになると、

その忘れ物を全力で取りに来るので、要注意ですよ。

 

今回も最後までご覧いただき有難うございました(^^)

ではまた次回。